たしかにコモ湖はミラノから近い。車の多い街中さえうまく擦り抜けることさえできれば、40分ほどで辿り着くだろう。郊外へ向く渋滞は夕刻に限られているので、出発する時間さえ間違えなければスムーズな流れに乗ることができるのである。
ガルダ湖だとそういうわけにはいかない。
A4という高速道路は最西端トリノからミラノを突き刺して伸びているが、国境近くにあるヴェネツィアを越えてまだまだ東へと続く。ミラノとヴェネツィアを結んだちょうど真ん中くらいにある湖がガルダ湖であり、その渋滞度が中々読めないのである。東西を結ぶ主要な高速道路ということもあり、物資を移動させるトラックの数が半端ではない。
週末、自由に走れないイタリアの高速トラック事情もあり、とくに週中は降板車線となる低速ラインに大型車が連なる。日本とは逆になる右側車線がそれである。右側が低速で走り延々と繋がったりすると、自ずと追い越そうとする大型車(トラックやバス)がウィンカーをだしながら中央ラインに飛びだし高速車の流れをせき止める。
それが渋滞の一番の原因となり、どこかで事故でもあろうことなら最悪の状態、流れていれば80分で着くところもその倍以上の時間を費やすことになるのである。
ただ、ある程度遅延到着したところでガルダ湖の南洋を思わせる景観はすべてのストレスを払拭してくれる。パラダイスに辿り着いたように興奮してくるのである。
高速から下りてスムーズに向かいたくなる町がシルミオーネというところ。頂点を北に向けた二等辺三角形の形状をもつ湖のその底辺中央に飛びだした半島の先にある町の名前である。
なんだかタツノオトシゴのようにも見えるその半島の全長は4キロほどであり、車でその先端に向かうと左右に湖が見えてくる、言葉にし難い高揚感を演出してくれるのである。自分が別天地に降り立ったような錯覚に襲われる。
ガルダ湖畔、このシルミオーネには古く(ローマ時代)から湧きだす温泉があり、それが湯治場というか保養地となったもっともな理由という。北イタリアの湖につきだす半島はトロピカルな雰囲気に溢れており、オレンジやオリーブなど温暖な地で育つ樹木が並ぶ。北より吹き下ろす風を遮断する山々が湖北部に聳えて、南から内陸に流れ込む温風をじっくり貯めている。
どこをどう切ったとしても日本の北海道と同じほどの緯度をもつ北の雰囲気などこれっぽっちも感じることはないのである。
堂満尚樹(音楽ライター)

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